7.ソフトウエア関連発明としての検討(上級編)

 上級編として、コンピュータ・ソフトウエア関連発明として検討します。

 さて、特許出願時のドラフトチェックではなく、これが、例えば拒絶理由通知後などの手続補正の場面だったとします。

 補正は、当初明細書等の範囲内で行わなければいけません(17条の2第3項)。

 本願では、補正で、請求項に、各テーブルの変更処理について記載を追加して、有効な反論ができるでしょうか。


 テーブルの変更処理について、一番具体的な記載は、実施例の最後の記載です。

「上記した、第二と第三のファイル7、8は、適宜別々に変更可能である。したがって、カードゲーム装置が設置又は販売される国や地方などによって役データや得点データを変更する場合に、適当なテーブルに書換えることで、第一のファイル6内のデータを共通に利用することができ、書換えられるテーブルが小さくなるのでその工数は軽減される。」

 この記載からも分かるように、本願の明細書等では、変更できるという効果は記載されていますが、どのような手段により変更処理を実現するかという構成については、具体的に記載されていません。

 「データ処理作業はコンピューター・プログラム手段により、又は特殊回路手段により実行される」のですが、ソフトウエア関連発明では、データ処理作業を実現する手段の具体的な構成・動作を特定することが重要です。

 本願明細書では、テーブルの変更処理については、ハードウエア資源の具体的な動作が特定されていませんので、一般的には有効な反論は難しくなります。

 例えば、「前記記憶手段は変更可能なものであって」などと補正しても、これは、記憶手段の特定であって、テーブル変更処理の特定とはなりません。そのため、この補正では、テーブル変更処理の簡易化という効果を導くことは困難でしょう。

 各テーブルの変更処理が、コンピュータの動作として具体的に請求項に記載されていれば、相違点として新規性が認められる可能性はあります。
 しかし、現在の明細書の記載では、補正をしても、そのような反論が成り立つ可能性は低いと考えられます。

 したがって、事例2−5では、特許出願の時点で、どのように各テーブルを変更するかを、ハードウエア資源の動作という観点から具体的に記載しておくことが重要だったのです。つまり、「出願の時点での発明者からのヒアリング」が重要になります。


 さらに、現在の各請求項には、基本的に、カードゲーム装置において、役に応じて合計得点を決定することが記載されています。
 明細書では、これによって遊戯者の興趣をそそるカードゲームになったと説明しています。


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 しかし、明細書には、「カードゲーム装置が設置又は販売される国や地方などによって役データや得点データを変更する場合に、適当なテーブルに書換えることで、第一のファイル6内のデータを共通に利用することができ、書換えられるテーブルが小さくなるのでその工数は軽減される。」とありますので、海外展開なども検討しているのでしょう。

 特許出願の書類作成には、このような「企業としての経営方針」の確認も重要になります。

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 この特許出願で重要なのは、カードゲーム装置を作ることだったのでしょうか。それとも、カードゲーム装置をメンテナンスすることだったのでしょうか。

 現在の請求項の記載では、遊戯者がカードゲーム装置を使って楽しむことが重視されているように思われます。
 このように、あたかも一般消費者である遊戯者をターゲットに権利行使するように本願発明を捉えたことは、適切だったでしょうか。

 請求項の作成では、このような経営戦略の方向性も、重要になるのです。


 事例2−5で一番問題なのは、テーブルの変更処理がコンピュータの動作として表現されていない点です。このミスは、後から取り返すことはできません。このような、コンピュータの動作として記載されていないものは、「事業活動、純粋に精神的な行為の遂行又は遊戯に関する計画、法則又は方法」(PCT国際調査及び予備審査ガイドライン9.07参照)に多いように思われました。なぜなら、この分野は、本質的に抽象的又は精神的特性を持つからです(同A9.07[2]参照)。

 それに対し、「科学及び数学の理論」(同9.05参照)では、基本的に、抽象的又は観念的なものを本質とします。そのため、理論的に誰もが認めるすばらしい発明よりも、理論的に既知の課題が存在していても実際のコンピュータの動作として優れたものであるという点に着目したものが多いように思います。この観点については、今後、機会があれば、CS審査基準の事例2−1を参考にして、退歩的発明というテーマで説明したいと思います。