4.明細書 〜 前半部分 〜

 一般に、明細書において、実施例より前までの部分を「前半部分」などといいます。

 ここでは、基本的に、重要な構成要件について、背景技術と比較して、目的・構成・効果(課題及びその解決手段)を説明しています。

 各構成要件についてマーカーで色塗りをしつつ、読んでいきます。


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 ここまでは、へぇ、という感じで読みました。

 しかし、ここから、2箇所でペンが止まりました。


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 ここでは、役データテーブル(ミドリ)と得点データテーブル(アオ)とを順に用いることが説明されています。
 しかし、請求項1には、役データテーブルも得点データテーブルも、記載されていません。そのため、請求項1に係る発明には、役データテーブルと得点データテーブルを使用する場合だけでなく、これらを使用せずに得点を算出する場合なども含まれます。
 そのため、この前半部分は、請求項1に係る発明について、役データテーブルも得点データテーブルも使用せずに得点を算出する場合などについて、説明不足になっているように思われます。


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 ちょうど真ん中の「また」以降の部分です。「変更可能な役データテーブルと得点データテーブルを別々に設けたので、役データテーブル又は得点データテーブルを変更して、国や地方によって、ルールの異なるカードゲーム装置を設置又は販売することなどが柔軟にできる。」としています。
 しかし、請求項1や請求項2に係る発明は、合計得点を計算するものであって、テーブルを変更するものではありません。現在の請求項には、テーブルを変更することは記載も示唆もされていません。そのため、この部分の効果の記載は、現在の請求項の記載とは無関係であり、本願発明の効果としての記載とは認められません。


<まとめ>
 以上より、この前半部分について、特許事務所にコメントすべきポイントは、少なくとも2点考えられます。

1.テーブルについて、明細書の前半部分の説明は、請求項1と整合しているでしょうか。
2.テーブルの変更処理が、請求項に記載されていないように思われます。


<上級編>

 明細書の前半部分では、本願発明の目的・構成・効果(課題及びその解決手段)を、本願発明の構成要件に従って整理して記載することが重要です。

 さて、【課題を解決するための手段】には、役データと得点データが別々のテーブルで管理されており、これを順に参照して合計得点を計算することが記載されています。 

 合計得点を計算するにあたって、得点データを参照することだけでなく、役データテーブルと得点データテーブルを別々に設けることまでも記載しているのです。


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 この説明のうち、得点データを参照して計算する点は、各役に対応する異なった点数を表示することができるという効果が説明されています。

 しかし、役データと得点データを異なるテーブルで管理する点は、説明されているでしょうか。

 本願発明の構成要件について、「技術上の意義」(特許法36条4項1号(委任省令))を考えるときには、通常、この構成要件が無かった場合を想定して、この構成要件が、発明において、どのような違いを生じているかを検討します。
 "make a difference" の考え方ですね。

 この場合は、役データと得点データを一つのテーブルで管理するものを想定します。

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 CS審査基準によれば、ソフトウエアは、「コンピュータの動作に関するプログラム」です。
 そのため、ソフトウエア関連発明では、コンピュータの動作を中心に検討することになります。

 記憶手段において、役データだけでなく、得点データも管理することによって、カードの役に応じた合計得点を計算することができます。
 しかし、コンピュータの動作としては、CPUは、メモリを参照するだけです。
 そのため、テーブルを分けることが、CPUの動作として、役の抽出とそれに対応する合計得点を計算する上で、どのような違いを生じているのか、よくわかりません。

 
 よって、本願明細書の記載をソフトウエア関連発明として厳格に判断した場合には、合計得点を計算する上で、役データと得点データのテーブルを分けたことについて、技術上の意義が不明である(36条4項1号(委任省令)違反)などの拒絶理由の対象となりえます。


 さて、本願明細書では、発明の効果として、「また」の前後で、計算処理と変更処理の2つの効果が並列して記載されています。

 並列の接続詞である「また」で単純につなげてしまいますと、これらの二点の関連が認められず、単に独立の効果が並存するものとして捉えられてしまいます。

 しかしながら、発明者としては、まず、役データに加えて得点データも管理することにより、カードの役に対応した異なる合計得点を計算できるという効果を主張したかったように思われました。

 さらに、役データと得点データのテーブルを分けることによって、変更処理における管理箇所を限定できるという効果があると説明しているように思われました。

 発明者は、実際には、この二点を関連させて、本願発明の技術上の意義を説明したかったのではないかと考えます。


 特許審査で重要なのが、本願発明における各構成要件の重要性まとまりのある構成要件群の認定です。

 例えば、調査(サーチ)では、新規性・進歩性等の判断の基礎資料を集めますが、この調査で重要なのは、本願発明における重要な構成要件群のまとまりが、公知文献等に記載・示唆されているか否かに対する評価です。
 そして、審査において、新規性・進歩性を議論する場合には、調査で集めた資料を基礎にして、本願発明と引用発明の各相違点を個別に検討するのではなく、相違点の相互関係も含めて検討します。

 同様に、明細書の前半部分では、各構成要件の重要性を説明するだけでなく、構成要件の相互関係も説明して、構成要件群をまとめて捉える視点も重要です。